Kenichi Ito Official Website Blog 【おすすめの10枚】⑧ Artisan Bruyant『Haut et Bas』

【おすすめの10枚】⑧ Artisan Bruyant『Haut et Bas』


【おすすめの10枚】
⑧Artisan Bruyant『Haut et Bas』

古楽器奏者『Sally Lunn』サリランとの出会いは、新宿駅でした。
その日は小松崎健さんと彼女とのジョイントライブにゲストで参加することになっており、車で乗り付けて待ち合わせたのです。

雑踏から現れたサリランは、中世からそのままエレベーターで上がってきたような空気をまとい、古楽器の風呂敷などををたくさん抱え、要するに周囲から浮きまくってました。「おいおい、なんかすごい人が来たな・・」という第一印象でした。

しかし会って話してみるとすぐに打ち解けました。
外観からくる印象と比べると、とてもノーマルな感覚の持ち主で、牛乳も飲むし唐揚げが好物な現代人でした(当たり前か・・)。しかし、こと音楽となると実にすごい。すごい偏っている!

私もジョン・レンボーンやデイヴィッド・マンロウ周辺の影響で古楽のアルバムは好きでよく聴いてましたが、その方向の音楽をここまで詳しく深く愛好している人に初めて会った気がします。そうした音楽を語る口調はとてもさり気ないもので、そのさり気なさにも凄みを感じてしまいます。
嬉しかったのは、自分が愛聴していた、エスタンピの『緑の森の木陰で』というアルバムの話題で盛り上がれたことですね。

それから現在まで、一緒にツアーをしたりユニットを組んだり、いろいろと楽しい時間をご一緒させてもらっています。

刮目するのは、彼女の使用楽器の豊富さ。
プサルテリウム(なんと自作)、リコーダー、バグパイプ、アルパ、クルムホルン、などなど・・・それぞれの器に合った楽曲や編曲で、変幻自在なステージを見せてくれます。隣でギターを弾いてると色彩の豊かさが本当に刺激的なのですが、変化する中に一本芯が通った安心感が常にある、不思議な人です。

中世音楽を演奏する人は、”研究者”としての面も持ち合わせていると思います。歴史を紐解く作業は、いにしえの音楽の表現には必要になってきます。

しかし誤解を恐れずに言えば、研究成果の裏打ちが必ず音楽に帰依するとは限りません。やはり音楽は音楽。研究者なのかミュージシャンなのか、その狭間で常に往来するのが古楽奏者のつらさなのかと想像します。

隣で演奏した印象では、彼女は生粋のミュージシャンだと思います。音に対する時の集中力と感覚の速さが人並み外れており、そして”中世もの”でなく常に自分の音楽を演奏している、そんな気がするのです。先程述べた安心感のようなものは、そこからくるのかも・・?と勝手に想像しています。

今回紹介するアルバムは、彼女の参加する本格的中世音楽ユニット、Artisan Bruyant(アルティザン・ブリュイオン)の『Haut et Bas』。3人の経験豊富なミュージシャンによるユニット、満を持しての1stアルバムです。

音色の洪水のような名作です。
冒頭『パレスチナの歌』は、バグパイプへ息を吹き込む音から収められていて、まずドローン管が鳴り、ロングドラムが加わり、プサルテリウムがアルペジオ〜メロディと展開する様は臨場感満点です。2ndコーラスからの近藤治夫氏によるバグパイプ(コルヌミューズ)の音色は、厚くたおやかでしかも鋭く、後半テイバーパイプとの重奏に展開してゆくと、ユニゾンの共鳴が人の声のようにも響き、胸を打ちます。ラストに残された蔡怜雄氏の遠いドラムが、遠い地への道のりを想起させます。

このアルバムは録音がオンマイク気味なのも特徴です。古楽のアルバムでは結構珍しいのではないかな・・・

アルフォンソ10世のカンティガ、モンセラートの朱い本、トロバドール/トルヴェール/ミンネゼンガーなどなど、中世の様々なソースから厳選した本格古楽が楽しめます
全16曲(それに加え、ルネサンス時代のボーナストラック1曲)。
1時間のタイムトラベルに、ぜひこのアルバムを!

↓こちらから購入できます。
「Sally Lunn」Facebookページ
https://www.facebook.com/Sally-Lunn-1615270792049830/

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【おすすめの10枚シリーズのコンセプト】2020.4.4
「こんな時には、とてもじゃないけど音楽を聴く気にはならない…」
私もその気持ちはよくわかります。

しかし、最近気づきました。
直接の面識のある友人達のアルバムからは、まるで彼らと楽しく話をしているような、そんな気持ちを貰えるという事を。

これから10枚ほど、そんな友人達のアルバムを紹介していこうと思います。
日常的にライブ活動をしている人たちばかりなので、この騒動が収まれば、誰でも直接会って話ができる人たちの音楽です。

この記事を読んで、10枚をコンプリートしてくれると嬉しいですね。

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