Ken Oya Model-J

Ken Oya Model-J(2008) #035

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トップ:ヨーロピアン・スプルース
サイド、バック:インディアン・ローズウッド
ネック:マホガニー
指板:エボニー
ブリッジ:ブラジリアン・ローズウッド
PUシステム:M-factory コンタクト・マイク

大屋建氏製作による「モデルJ」。私にとって生涯初のオーダーメイド・ギターである。
「厳しい感じでお願いします」という非常に抽象的な注文だったにも関わらず、贅肉を削ぎ落とした透徹な響きと低域の豊かさを兼ね備えた、正に望んだ通りの楽器が出来上がってきた。
伊藤賢一【終生のライバル】になるであろう、現在のメイン・ギター。


【そもそも】
大屋ギターとの出会いについては、Model-Fの項で述べた。

とにかくM-factoryの三好さん所有のModel-J(#022)に感銘を受けたのが最初だった。

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左:私所有#035 右:三好さん所有#022 (三好さん撮影)

#022は大屋ギターのJ(ジャンボボディ)のプロトタイプとの事。
マーティン系のゴージャスな倍音とは異なる、研ぎ澄まされた厚みのある単音と透明な倍音を持った、プロトタイプにして名器である。

私もその後、幸運にもModel-F(#009)を入手できたが、いつかは「ファースト・インパクトのModel-Jを」との思いはあった。


【#022をレコーディングに・・・】
2006年夏。アルバム「海流」のレーコーディングが続いていた。
東京〜伊那のレッド・イグアナ・スタジオまで車で往復しながらの録音だったのだが、ある日ふと思いついてしまった。

「三好さんに#022をお借りして数曲録ってみたい・・・」

厚かましくも早速お願いしたところ、快諾していただいた。
「丘をこえて」「ともだち」(『秘密基地の黄昏』のソースとなった曲)を録音。早速プレイバックしてみると・・

・・・・??中域が妙に膨らんでいる??・・・・
マイキングをいろいろ変えてみてもその時は解決せず。
演奏自体は納得いったので、これを元にミックスしていこうという事になったが、困った事に中域をカットしても解決しない。

そこで低域をカットしてみたらスッキリまとまった。

中域と感じていた膨らみは、実は出音には感じない低域だったとは。これは面白い結果だった。

この時の「丘をこえて」がそのままアルバムに収録される事になった。

今でもこのトラックを聴くとその時のやりとりを思い出す。
「低域カット前のバージョン」と比べて聴くと非常に面白い。


【人生初オーダー】
私のModel-F#009と三好さんのModel-J#022を比べてみる。
音程の確かさや演奏性の高さといった基本的な要素に関しては、言うまでもなくどちらも高次元だが、剛直で存在感のある単音が身上のModel-F#009と比べると、Model-J#022は見事に分離された和音の奥に、えも言われぬ透明感が香り立つ。
非常に魅力的だった。

Model-Fが「人間の世界」だとすると、Model-Jは「大自然」という感じ。


今まで楽器は「出会ったものを買う」というパターンだったが、#022の素晴らしさを目の当たりにしたのを機に、大屋建さんにModel-Jオーダーをする決心をした。


基本的スペックは
「三好さんの楽器と基本的に同じに」
相違点は
「カッタウェイは無し」
「ポジションマーク無し」
「ヘッドデザインは『K』マークで」

それと音については
「厳しい感じで」
という注文を付け足した。


そして、2008年6月。
ついに出来上がったとのお知らせが!!

伊那で初めて音を出した時の感覚は、「太い」。
意外にも単音が太く朗々と出ていて、新品特有の線の細さは感じなかった。
流石に倍音はまだ覚醒していなかったが、真っ直ぐ伸びる素直な音だった。
注文した「厳しい感じ」とは、タッチにシビアで、なおかつゴージャスな倍音で演奏を助けるような味付けは無しで、という意味合いであったが、まさにそういう音。
弾いていくうちに無垢な透明感のある世界が広がった。
これですよ。
こういう楽器と対峙したかったのですよ。

その日は感激のあまり、ものすごくニヤニヤしていたらしい。


【対峙の日々】
こういう繊細な作りの楽器を新品で入手して弾き込んでゆくというのは、非常に興味深く贅沢な事だ。

一ヶ月〜二ヶ月の間は単音が出る楽器と言う印象だったが、三ヶ月目に初めてツアーに持って行った時に、一つ大きな変化がおとずれた。

ツアー出発前に伊那の大屋さんの工房に立ち寄ったのだが、故郷の空気に触れて覚醒したかの如くそれは起こった。

なんかいつもより「弾きやすい」??

注意深く聴いてみると、低音〜中音の倍音がきれいに繋がってきた。

6弦〜4弦あたりがすんなり繋がり、アンサンブルの安定感が段違い。
「あれ?いつもと違うぞ」
と思うのもつかの間、そのまま弾いていくとそれが、3弦、2弦・・と段々降りてくる感じだった!こんな経験は初めてだ。

製作者の大屋さんと共にこの変化を見れた事は、私にとって非常にラッキーだった。

今のところそれが全域に渡って落ち着いたが、多分これが「第一次変化」で今後どれだけの変化段階を踏むのか、まったく末恐ろしい。


【ちゃんと音楽を・・・】
所謂「ソロギター」は、指板全域の音をまんべんなく使用する。
伴奏用コード弾きに特化したものが多い中、ソロギター演奏に耐え得るスティール弦ギターは意外に少ないものだ。

その中でもバッハやルネッサンスものとなると、どうしても内声の存在感が必要になってくる。
ゴージャスな倍音が出る楽器でも、単音に焦点を当ててみると3、4弦のハイフレットが響きに埋もれてしまう事はよくある。
こういう高次元のバランスはスティール弦ギターにとって泣き所なのだ。

しかしこの楽器はバッハでもなんでもどんとこい!である。
低音のハイフレットの「自然さ」は他のどの楽器からも得られない。
当たり前のように各音が響き合ってくれるので、バッハを淡々と紡いでゆく中でも、えも言われぬ安心感がある。

倍音が横に拡散せず、単音の深み、厚みにしっかりと転嫁されるので、弾いていて手応えがあるというか、とにかく思ったように音の出し入れができる楽器だ。

それだけに、このギターを弾くと、いつも「ちゃんと音楽をやれ」と迫られる感じがする。
私もそれに応えていきたいと思う。

産声をあげた2008年6月から今まで、この楽器と私との関係はそんな感じである。
「先生」でも「友達」でもない。
やはり「ライバル」というのがしっくりきている。


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トップ:ヨーロピアンスプルース

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サイド/バック:インディアン・ローズウッド

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ヘッド

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指板:エボニー

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ブリッジ:ブラジリアン・ローズウッド

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チップ・カーヴド・ロゼッタ

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PUシステム:M-factory コンタクト・マイク

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ラベル