Antonio Marin

Antonio Marin(1984)
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トップ:ジャーマン・スプルース
サイド、バック:ブラジリアン・ローズウッド
ネック:マホガニー
指板:エボニー
ブリッジ:ブラジリアン・ローズウッド
PUシステム:M-factory コンタクト・マイク

*この楽器は手放しており、現在私のもとにはありません。

スペインはグラナダの名工、アントニオ・マリン。
私がこの楽器を入手したのは演奏活動を本格化し始めた2001年のこと。
以来、日々の基礎、基本、応用練習はほぼ全てこの楽器で行ってきた。
私のクセや遍歴が染み込んだ楽器であり、一番「伊藤賢一くさい」楽器だと思う。


【楽器を探す】
2001年当時は、私自身現在のようなライブスタイルが定着しておらず、スティール弦のカオルギター1本でやったりオベーションのナイロン弦と2本でやったりしていた。

当時は学生時代の相棒であるラミレスも持っていたが、何故オベーションだったか?
それは「スティール弦との持ち替え」の問題が大きかった。

スティール弦ギターとナイロン弦ギターとでは、弦のテンションからタッチの深さ、余韻の処理まで全く変わってくる。同じ「ギター」とはいえ、ほぼ別の楽器と言って良い。瞬時に持ち替えた際には相当とまどう。
その差は想像以上で、ギターソロで音楽を成立させようとすると尚更ギャップは広がる。

ラミレスの鳴り方は(特に当時所有していたラミレスは)スティール弦のメタリックさを出すタッチだと、キンキンした成分が前に出てしまい、カオルギターとは併用しにくかった。

比べてオベーションのナイロン弦は大味でブーミーな分、その高域成分をうまく吸収してくれているように感じた。


しかしライブを重ねるにつれオベーションの楽器としての限界を感じてきてしまった。
これはそろそろ本当に良いクラシックギターを入手しなければと思い、楽器店行脚が始まった。


候補に上がったのは4本
・ダニエル・フレドリッシュ(220万円)
・マルセロ・バルベロ・イーホ(150万円)
・ホセ・オリベ(50万円)
・アントニオ・マリン(90万円)

勿論一括払いなど頭に無いのだが、どれも高い!
まずフレドリッシュは重厚で素晴らしい楽器だったが、高すぎて却下。
バルベロはかなり現実的な月賦計算までいったのだが、そのタイミングで入荷してきたのがオリベとマリンだった(この2本は別の店に入荷)。

オリベはほぼ新品状態で鳴りもパワフル。当時の私のイメージに合っていたため、最初弾いた時は「これに決まり!!」と思った。

しかし、別の店でマリンを見た瞬間になぜか「これは絶対品のある良い楽器だ」と直感したのだ。

*ちなみに今では「見た目で楽器の良し悪しがわかる」云々の話は信用していない。「良い」という状態を判断するのは、直感的な閃きよりももっと多角的な視点が入る余地がある事を最近知った。

弾いてみるとオリベには無い芯のある音が出る!
タッチに敏感で、いい加減さは表に出る。しかし、ハウザーのようにルーズさを「断じて許さない」ほどでは無い。
それでも私の弾き方よりはるかに上品な素性の楽器に感じたが、これは自分を伸ばしてくれる楽器だろうという予感がした。

当時の現状で即戦力ならオリベだったが、ここは将来をとってマリンを購入する事にした。
そしてそれはものすごく正しい選択だったと断言できる。


【マリンの特徴】
私のマリンの大きな特徴としては、まず立ち上がりの良さがあげられる。
ラミレスなどは、音が一旦ボディ内を回ってくる感覚があるのだが、その点マリンは素直というか、スパンと発音してくれる。

そしてタッチに敏感ながらも許容範囲が広いというか、マリンを使うようになってから鉄弦のタッチとの擦り合わせ作業が格段に楽になった。

混じりっけなし「本物のクラシックギター」なので古典やバッハはもちろんOKだし、その明るい音色はポピュラーやオリジナルにも合う。
いろいろなジャンルを演奏する私にはまさにピッタリの楽器をいえる。
数ある名器の中でも不思議なバランスを持った楽器だと思う。

ともあれマリンを四六時中弾くようになってから、自然と脱力の仕方やタッチを追求するようになり、今まで自分に無かった大事な要素を学ぶ事ができた。


【ピックアップを仕込む】
純クラシックギターであるマリンは当然ライブでもマイク集音。
それ以外の選択肢は頭に無かったのだが、活動が広がるにつれ、マイク集音だといろんなシチュエーションに対応できなくなるのも感じてきた。

そこでそろそろピックアップ(PU)を導入してラインで演奏するスタイルを考えてみようと、思っていた矢先、友人の下山亮平君から
「M-ファクトリーの三好さんがクラシックギターとPUとの組み合わせに興味をお持ちである」
との情報をいただく!

M-ファクトリーといえば、スティール弦アコースティックギターの世界では最も信頼度の高いシステムとして既に定着しており、日本中の名だたる名手御用達のPUシステムとして、私もその存在を知ってはいた。

M-ファクトリーとナイロン弦ギターとの相性、私も興味津々だったので、三好さん宅を訪ねてみる事にした。


挨拶も済み、では早速という事でマリンの表面板にコンタクト・マイクを貼付け音を出してみる。
貼付け位置を数箇所試していくうちに、その性能の高さに驚いた。

学生時代には「表面板を振動させろ〜!!」とよく教授に言われたものだ。
いくら力を入れて弦をはじいても、表面板を振動させるタッチでないと遠逹性のある音が出ないという事を教わったのだが、その意識にこのPUは見事に追従してくるのだ。

この感覚は実際にこのシステムで楽器を鳴らしてみないと体感できないかも知れない。

というわけで、晴れてM-ファクトリーを搭載し、更なるライブでの酷使が始まった。


【塗装タッチアップ】
購入時から表面板にキズが多くシュラック塗装もムラあり状態だったが、私が使い始めてからはそれが更に進行し、気がついたら塗装が剥げて木地がケバ立つようになってしまった。
これはタッチアップせねばいかん。

楽器の塗装は音にものすごく影響があるところなので、タッチアップするにしても「顔の見えない仕事」にだけは依頼したくなかった。
どうしたものかと大屋建さんに相談したところ、長野県は松本に工房を構えるクラシックギター製作家、中野潤さんを紹介して下さった。

中野さんはアントニオ・マリンの工房で研鑽を積まれた方で、トーレス(現代のクラシックギターの礎を築いた製作家)の研究家としても有名。
話を伺うと、なんとマリン工房と同じ塗装を持ってらっしゃるとの事!
松本の工房に楽器を持って行って、塗装の全面タッチアップをお願いする事が出来た。

出来上がりは(当たり前だが)非常にきれいで、デコボコになっていた箇所も平にしてもらえた。
更にヘッドの割れ(気づかなかった!)、指板ボディの結合部分の割れ等々、ガタのきていた箇所を徹底的に直してもらった。
その全てが「まるで何も無かったかのように」きれいに仕上がっていた!

音も、タッチアップ前はカーンと乾いた響きだったのがとても落ち着いて、非常に良い具合。

これでまた遠慮無しに使い倒せる!
自分の分身にも等しい愛器の復活、嬉しかった。


【私とマリン これから】
マリンは今でもバリバリの現役だ。
北海道ツアーでは飛行機に乗せ、関西方面へは車に揺られ、過去の巡業には全て帯同。レコーディングでも瑞々しい響きは健在だ。

2009年、ドイツの名器「ヘルマン・ハウザー2世(1960)」の仲間入りによりメインギターの座を譲るも、PAシステムを通したライブでは相変わらず安定した響きを出してくれる。

毎日毎日マリンを抱えて必死になっていた7年の日々は、私の一生の財産だ。

会心の演奏も、指の故障も、地道な練習も、いい加減な弾きとばしも、全て「私とマリン」そのものである。



【写真】

マリン表面.JPG
トップ:ジャーマン・スプルース

マリンバック.JPG
サイド/バック:ブラジリアン・ローズウッド

マリンヘッド.JPG
ヘッド

マリンラベル.JPG
ラベル