Ken Oya Model-F

Ken Oya Model-F(2000) #009

大屋F.JPG

トップ:シトカ・スプルース
サイド、バック:インディアン・ローズウッド
ネック:マホガニー
指板:エボニー
ブリッジ:エボニー
PUシステム:M-factory コンタクト・マイク

*この楽器は手放しており、現在私のもとにはありません。

大屋建氏製作のこの楽器は、私にとって終生忘れられないの楽器である。
このギターが私にもたらした音楽的影響は計り知れない。
しかし何より、この小さな個体がひとつの縁となり幾多の大きな出会いを生み出したという点において、決して忘れてはいけない楽器なのだ。


【出会い】
2005年末、5年間続けて来た「マイク集音でのライブ」に見切りをつけ、ピックアップ(以下PU)装着を決意する。
友人ギタリストの下山亮平君から「M-factoryの三好英明さんはクラシック・ギターと自身のPUシステムとの相性に興味をお持ちである」との情報を得、早速三好さん宅にアントニオ・マリンを持ってお邪魔する事にした。

初めてお会いする三好さんは非常に鋭い印象の方で、本物の職人の雰囲気が漂っていた。
ほどなくマリンにPUを装着する件はまとまり、お茶をいただきながらいろいろ談義している中で三好さんが一本の楽器を見せて下さった。

それが初めて見る大屋ギター。
Model-Jのプロトタイプ(#022)だった。


・・・当時私の愛器はカオルギター(中島馨氏製作)のOM-45タイプだった。
DSCN0174.JPG
新品で購入してからの5年間、私を支えてくれたギター。
このカオルギターはマーチン社を強く意識してマーチン社を超えたような楽器だった。倍音が豊かで、単音の分厚さは比類が無い完成度。「これ以上の楽器あるの?」と唸る、名器だった。


さて三好さんの大屋ギター。
弾いてみて驚いたのは、その名器カオルギターとは全くベクトルの異なる完成度だった。

音程が合う。

誤解が生じてはいけないのでことわっておくが、カオルギターの音程が甘いのではない。むしろとても正確だった。
世界中でギター製作の手本となっているマーチン社の楽器でさえ、特にハイポジションの音程の不確かは顕著である。むしろギターというのはそういう性質の楽器なのだ、と半ば達観していたのだが・・・

これは「合う」ではないか!

ギターにとって一番のウィークポイントである低音弦のハイポジションも、当たり前のように正確なのだ。
これは新鮮な驚きだった。
この非常に正確な音程(ピッチ)により、各音の分離が耳に痛いほど感じられる。そこから生まれる倍音はマーチン系のコージャスな倍音とはまさに質感が違った。
贅肉を削ぎ落とした真っ直ぐで透明な音。

大屋建氏の事はギター雑誌掲載記事で読んではいたのだが、失礼ながらここまで凄いものを作る人だとは想像していなかった。

非常に刺激を受けた、三好さん宅訪問だった。


【ギターショップ Hobo'sにて】
その数日後の事。
オフの日に行きつけのギターショップ「Hobo's」に何気なく立ち寄ったのであった。

いつものように楽器を物色していると、奥の方に何やら地味な光を放つギターが・・・

何と奇遇な!大屋ギターではないか。

大屋ギターは完全オーダーメイド生産のため、楽器店に出まわる事などほぼ無いのである。
それなのに大屋ギターを知ったまさにそのタイミングで出会うとは、何か縁を感じずにはいられなかった。

早速弾かせてもらうと、以前使用していた事があるクラシックギターの名器「ハウザー2世」の鳴り方にそっくりで本当に驚いた。
三好さんの楽器よりも剛直な印象で、一音一音が交差せずにまっすぐに飛んでゆくのが目に見えるよう。
音程はまた当然のように正確。バッハを弾くと怖いくらいに各音が分離してくれる。
右手にも敏感で、タッチに内容を込めると甘い音も出るのだが、ただ弾くだけだと目に見えて硬質な音になってゆく。これは恐ろしい。

しかし本物の楽器はそういうものだと思う。
クラシックギターでもフレタやアグアドなどは無神経に弾くと雑音が耳に刺さる感じになる。良い楽器ほどタッチを磨こうと意識をさせるものなのだ。
ただ、鉄弦のギターでそういった性質のものには初めて出会った。

実はその一ヶ月前に新しい楽器を購入しており、買うモードゼロで来店したので、まさにカウンター。
しかしこの機を逃して良いのだろうか?
答えは伊那、じゃなかった否である。
楽器には「手に入れなきゃいかん時」があるのだ。

店員Oさんも「何としても手に入れるべき」と言ってくれたのを今でも思い出す。

いろいろ金銭面で奔走し、めでたく購入。
その時の日記にこうある。

『先述の大屋建のモデルF(OMに相当するサイズ)、購入する事にしました。
これは自分の楽器だ、と強く感じます。
生半可なタッチだとちゃんと鳴ってくれません。
(注↑これはギターの感度が悪いのでは無くむしろ逆で「いい加減なタッチだといい加減な音がそのまま出る」という事です)
クラシックギターにはこういう厳しい性質のやつがありますが、スティール弦のギターでは初めて見ました。
いいな〜、この厳しいところが!』


【伊那に縁す】
購入した店頭で店長O山さんが製作者の大屋建さんに電話で取り次いで下さり、工房に遊びに伺いたい旨を伝える事ができた。

大屋建さんのご自宅兼工房は長野県伊那市にある。
新宿の自宅から約3時間。
空気も良いし道も穏やか。とても良いところだ。

いよいよ大屋さんと対面。
私も演奏家として訊いてみたい事をいろいろとぶつけてみた。
生意気な質問もいっぱいした気がするが・・・
どの質問にも穏やかな口調でよどみなく明解な答えが返ってきた。
その感じが楽器から受ける印象と非常に似ていたのが印象的だった。

数時間お話しした後、近くのレコーディング・スタジオに連れて行ってもらった。
「RED IGUANA STUDIO」
は車で3分。
スタジオが近くにある事は事前に伺っていたが、ここまで近いとは・・・

主宰の林慶文さんがまた味のある方で、私と年はあまり変わらないのに年季が入った雰囲気がある。

まずコンソールルームに案内されてビックリ!
雑誌でしか見れないようなすごい機材がビッチリ配備されているではないか。
これには圧倒されてしまった。

ブースでのソロギター録音もさわりだけ体験させてもらった。
その際のマイクもノイマンをステレオである。
それをGENELECのモニターでプレイバックした時の音の密度!

次のアルバムは自宅録音でやってみようかと検討していたのだが、プロの設備と使いこなしを目の当たりにするとその思いは吹き飛んでしまった。

次作はここでレコーディングさせてもらう事で話がまとまったのだった。
そして10ヶ月後、アルバム「海流」が完成する。


思えば不思議な縁である。
この頃は、私の意図とは別方向からの流れで音楽活動が繋がってゆく感覚がしていた。
下山君と話をしたところから、M-Factry三好さんと出会い、大屋ギターと出会い、伊那に縁し、レッド・イグアナ・スタジオの林さんと出会い・・・
ほぼピンポイントと言って良い。

その後も多くの出会いがあり今も続いているが、中心にはいつもこの楽器があった。
本当に出会えて良かった。


【写真】

大屋Fトップ.JPG
トップ:シトカスプルース


大屋Fバック.JPG
サイド/バック:インディアン・ローズウッド


大屋Fヘッド.JPG
ヘッド:エボニー

大屋Fライン.JPG
PUシステム:M-factory コンタクト・マイク


大屋F指板.JPG
指板:エボニー


大屋Fラベル.JPG
ラベル